介護者と家族の心のケア読了

発刊を楽しみにしていて、仕事帰り地下鉄を途中下車して購入した本です。
読み始めも読了も通勤電車の中でした。
辛い通勤の時間にこの本を読んで癒されている自分に気づきました。
著者である渡辺俊之先生のケアの思い出が散りばめられた想いのこもった本です。読了して遠距離介護の只中にいる私の不安を鎮めふんわりとした安堵感を与えてくれました。難しい専門用語や読んでいて辛い記述もありますが、現在介護をしていて家族との心の問題を抱えている方に是非読んでいただきたい本だと思います。
この本は主に要介護者持つ家族を含めたケアの理論について整理された援助者向けの専門書です。ですから決して平易な介護マニュアルではありません。介護技術や介護サービス、マクロ的な介護論に傾きがちな福祉関連の書籍の中にあって、要介護者を抱える家族やそれを支える地域、介護家族カウンセリングなど心のケアについて書かれた本は意外に少ないのが現実です。介護保険が導入され民間の介護サービスも充実してきた昨今、要介護者へのケアにばかり関心が向きがちですが実際には介護者やその家族も要介護者を受け容れることで様々な葛藤を抱えます。要介護者が味わう悲しみは介護者やその家族にも影響を与え心身ともにケアが必要なのです。援助者に家族の歴史や心の問題を理解する姿勢があれば、虐待や放任、心中などの悲しい事態は防ぐことができます。また援助者の中に沸き起こる感情を理解することで、要介護者や介護者、その家族に対するケアに生かせることができるのです。
第Ⅰ部では「家族が介護を抱えるとき」と題し、介護者の心理状態や様々な介護家族の問題を事例を挙げて解説しています。第Ⅱ部では「介護家族カウンセリングの基礎と実践」と題し、問題を抱えた介護家族へどのようにアプローチしていくか解説していきます。医療としての介入だけではなく援助職や家族であっても解決の糸口が見つかるような構成になっています。豊富な事例が実践に役立つと思います。
こうして感想を書いていくと堅い本のように思われるかも知れませんが、一度手にとって数ページ読まれてください。そこには著者の渡辺先生ご自身のケアの思い出が事例として描かれています。精神分析を専門とする精神科の医師が自身の歴史を開示するというのは大変な勇気の要ることだったでしょうし、辛い経験を活字に起こす作業は悲しみや苦しみを湧き上がらせたことでしょう。心のケアについて書かれた本は日々様々なものが発行されていると思いますが、まるで自伝のように著者自身のケアの記憶を介護に悩む人々に捧げている本は読んだことはありません。渡辺先生の介護家族に対する優しいまなざしを感じながら、時に重く苦しい内容に心を痛め、時に目の覚めるような展開に驚きながら、この本に癒されていることを実感しました。最後のコラボレーションの章に読み進んだときには、母の介護もなんとかやっていけそうな少し明るいイメージができるようになりました。
集中力が続かず斜め読みしがちな私ですが、この本は最初から読み進むことができました。でも目次を読んで興味のあるところから入ってみても多分最初から読んでみたくなる本です。
援助の専門家だけでなく、介護に疲れている人、家族関係に悩んでいる人にも是非読んで元気になって欲しいと思います。
渡辺先生とこの本に出会うきっかけを作ってくれたインターネット、そしてブログに感謝しています。これからの介護者、援助者には必要なツールですね…。

高崎健康福祉大学・渡辺俊之研究室
渡辺先生のブログ:辺縁への志向性