夫のこと

サクラソウ

今日は会社に休みをもらい、消化器内科と心療内科の2科受診してきた。
消化器内科では、最近休日の夜、腹痛が起こることを報告しなかった。なんとなく、潰瘍性大腸炎から離れたくなっていたのかもしれない。
その後、2時間待って心療内科を受診した。受診を1日にかためたかったので、心療内科での受診は予約なしの日になってしまった。ゆっくり相談することができない。
診察室に入ってから、主治医に仕事が6月まで更新になった話をした。ただ、これ以上続けていけるか自信がないし、続けていくことに疑問も感じていると話した。私のことについての話は今回ほとんど出来なかった。夫の行動に異常を感じたのでその話をしたからだ。
私の住んでいる借家は同じ間取りの借家が2つ並んでいる。隣の借家には若い夫婦が住んでいるが殆ど交流はない。知らないうちに引っ越してきて、いつのまにか結婚して夫婦になっていた。挨拶もなかった。
以前から、この夫婦の立てる物音には耳障りな気はしていた。ドアを閉めるときの乱暴な音。階段を大きな音を立てて走って昇り降りする「ドスドス…」という音。窓を開けるときの勢いのある音…。
ただ、田舎の人かも知れないし、仕方ないかなと思っていた。夜中になっても遠慮が無いのには常識を疑ったが、そういう人たちもいるのだと思って諦めていた。私たち夫婦だって、気づかないところで周囲に迷惑をかけているだろうから。
けれど、夫には我慢できなかったようだった。
深夜、物音を立てる隣人に向かって、就寝していた夫は寝室の床を金づちで叩いて抗議した。隣人は何度も懲りずに物音を立てるので、その度に金づちで床を叩いた。
夜中、大きな音が双方から響いた。
私は何事かと思って2階の寝室に行って、夫の手に金づちが握られているのを見て驚愕した。
夫は壊れたと思った。そして、どうしようもない不安を感じた。
私は夫は最近、自分より異常なのではないかと思うと話した。私より重症のように思うと。
主治医は、最近一番の悩みはその事ですか?と尋ね、私が頷くと、この病院に非常勤で来ている精神科医を紹介しても良いがどうするかと聞いてきた。
夫の行動から、精神科領域の疾患が疑われる、物音に反応するところは統合失調症によくある症状と思われるというのだ。
しばらく、沈黙が流れた。
私は正直、ショックだった。家族が精神疾患であるかもしれないと言われることが、これほど辛いものとは思わなかった。それは逆に夫が今まで私に対して感じてきたショックだったのではないか、夫をおいつめたのは私の病気のせいではないのか、私の存在が夫を不幸にしているのではないか…とぐるぐる考えが巡っていた。
主治医は私の判断を待っていた。
「家族が受診して、処方もされるのですか?」
「それは先生の方針によりますね。どうしますか?予約を入れておきますか?」
「…お願いします…」
そう、答えるしかなかった。
私は夫を病気にしたくないという気持ちが強かった。ただ、元のように元気になってほしい、苦しみを少しでも減らしてやりたいということが、予期しない方向に進んでいるようで少し後悔した。
主治医は新しいクリニックのご案内を次回の診察の時にしますから、と言って穏やかに微笑んだ。
私は自分の選択が間違っていないか、大変な思い違いをしているのではないか、予約を決めた後も迷いが消えなかった。
診察後、簡単な報告を何回かに分けて夫にメールしたが、返事はなかった。