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嵐の後

土曜日の朝、前日の嵐のような雨は過ぎ去り、強い風が雲を吹き飛ばしていた。
今までの父の検査結果をまとめ、腸閉塞の原因と今後の治療方針の家族説明があった。
昨夜は実家に泊った。母には「父はがんだよ」と話しておいたが、理解できないらしく妹にわざわざ電話して同じ質問をしていた。信じたくない様子だった。私は母が理解できなかった。あんなに辛い思いをさせられてきた人に、まだ情があるなんて…。
説明には私と妹が父と共に聞くことになっていたが、例によって妹は時間に遅れてきた。
主治医は、順を追って検査結果を説明した。そして、最終的に腸閉塞の原因は原発性のがんであることを告げた。
父は少しうろたえていたように見えた。けれど、私はとても冷静だった。冷淡であった。
母が脳梗塞で倒れたとき、私は母に代わって死んでしまいたいと思った。
父ががんであると知った今、やりたいことを思う存分やってきた父に、「仕方ないだろう」という気持ちしか起こらないことが不思議だった。
父は自分ががんであることを認めれば、ますます我侭に無茶なことをするのだろうか。
病人に対する優しさや哀れみの気持ちすら起こらなかった。
自分は冷たい人間だと思った。
私はこれから続く父の手術や入院生活やその後の療養生活にどうやって引きずられずに自分の生活を守れるか、そればかり考えていた。
なぜだろう。幼少の頃から、私に対する仕打ち、暴言、辛い思い出、そして、今のみじめな気持ちに追い討ちをかけるような無遠慮な言葉…そのひとつひとつが塊になって私の感情に蓋をしてしまっているような気がする。
父は大腸がんだった。1週間後、手術で摘出する予定。
ただ、その事実だけ聞いて、重くのしかかるような疲労におそわれ、帰宅した後も身体を起こしていられなかった。
風の強い、よく晴れた一日だった。それが妙に不安をかきたてた。