穏やかに進むために

実家に行く日はいつも気持ちがすくんでぐずぐずと時間が経っていく。荷造りも苦痛でたまらない。
新しい服を着てみる。重い荷物を背負っても気持ちが晴れるように。
家を出て駅に向かう途中でギャラリーに立ち寄った。ガラス作家の展示をしていた。美しいトンボ玉のアクセサリーが目に留まった。お金は使っちゃ駄目だ。そう思いながらも手にとってしまう。淡い微妙な色の組み合わせ…甘い優しい気分にさせる。その服に似合っていますよという店主のお世辞は分かっていても自分のものにしたくなった。結局少し散財をする。罪悪感とともに満たされたほっとした感じ。いいんだ。これで。
ひとをケアする前に自分をケアしよう。少しばかりお金がかかったなら次は頑張って仕事すればいい。ランチには遅い時間、いつもの喫茶店に顔を出す。スコーンを頼んで珈琲豆を挽いてもらう。実家に持って行くのだ。これも本当は親へのお土産ではない。自分がひととき楽しむために持っていくのだ。
涼しい店内で、今買ったばかりのトンボ玉のネックレスを身に着けてみる。本当に今日の服に合わせたようにぴったりだ。私を待っていたように。
段々と壊れていく母を見るのは辛い。心がささくれて倒れそうな感覚に陥る。
だから、ごめんね。もう少しここで自分をケアしてから行くから。必ず帰るから…。
しばらくゆったりしたクラシック音楽の流れる店内に身を委ねて珈琲豆が出来るのを待っていた。