パニック発作

早めに家を出て買い物を色々するつもりだったのに、いざ行こうとすると苦しくて泣きたくなった。嫌で嫌で仕方がなかった。雨が降ってきた。なんとか家を出て駅へ向かうが足取りが重い。息苦しい。途中下車して菓子折りや花を買う。なぜか時間がかかる。なぜならわざと寄り道したりしているからだ。ささっと行かないと退院の時間に間に合わない。もう遅刻になると思って父に電話を掛ける。私が病院に到着するまで待っていると言う。早く行く為に乗るのが嫌な電車に乗る。いつもは遠回りしているが早く着かなくては間に合わないから。その電車に乗ると幻聴が聞こえることがある。乗っている人が怖い。電車の形も色も内装も当時と全然違うのに乗っていると緊張して苦しくなる。段々息苦しくなりドアに寄りかかって肩で息をする。席が空いたので座らせてもらってフルメジンセパゾンを紅茶で流し込む。こんなことで死んだりしないが死んだほうがましな気分がする。世の中が真っ暗だ。急がないと。急がないと。
病院に着いた私は、何事もなかったように「遅れてごめん」と言って病室へ入る。父は休みをとっていて妹も早退したらしく母の荷物は大体片付いていた。妹が菓子折りを1つ持ってきていたのでそれを同室の患者さんたちへご挨拶に渡した。私はナースステーションとリハビリ科へ一応地元にはないお菓子をと思って考えた品だ。メッセージカードも簡単にお礼を書いて挟んだ。婦長さんに挨拶し、リハビリ病棟を本当に退院する。長かった半年。一番辛かったのは母だろう。帰りがけにリハビリ科に寄ったが担当の先生の一人は休暇中だった。もう一人は仕事中。受付に言付けて挨拶して、いよいよ病院の外へ出る。車椅子を返却しようとした時、担当の理学療法士さんが玄関まで来てくれた。これからも暫くは外来でお世話になる。「退院できて良かったですね」と言って車まで見送ってくれた。リハビリ科の担当の方々には本当にお世話になった。最後に私の辛らつな申し入れ書事件で関係が壊れてしまったのではないかと心配している。本当に私のこころが潰れてしまいそうだった。いろんな人に波紋を投げかけてしまった。投げた石は戻ってこない。母のためにしたことがこれだけ色々な人の心に影響を与えてしまう。そんなつもりはなかったのに。もう、この病院には足を運びたくない。病院が怖くなった。
車はゆっくりと実家へと走り出した。母はにやにやと笑っている。ほっとしているのだろう。そしてこれからが在宅介護のスタートなのだ。
用意していた花束はカーネーション。母に贈ることにした。退院と母の日のお祝いに。