何故笑うの(涙)

今日はいつものようにコーヒーをポットに詰め、昨日どうしても気になって買ってしまった草木染のピンタックの入ったゆったりした明るいマスタードイエローの木綿のブラウスをバッグに入れてお見舞いに急ぐ。夫は今日は徹夜仕事で帰ってこない。少しゆっくり病院にいられる。
病室に着くとまた母はベッドに横になっていた。「リハビリは?」と聞くと「リハビリ浴の説明があるのにお風呂セットが無いんだよ。電話しても誰も出ないし…」と落胆した表情で私に訴える。お風呂セットとは介助浴のときの着替えのセットのことで、本来は自分で動いて下着も着替えも準備出来なければ自立とは言えない。まだ自分の着替えを用意する事が出来ないから慌てていたのだ。紙袋には洗濯物が入っていた。よっぽど不安だったらしい。来てすぐ、まるで私が悪いように訴えられて私の気分も不安定になってきた。
そうしているうちにトイレに連れて行けと指図される。急いで車椅子に移乗させ、素早くトイレに誘導するが介助する前に失禁してしまった。ドアを一旦閉めて着替えと尿取りパッドを取りにベッドサイドへ戻る。足元まで濡れて靴下も汚してしまっていた。最近、尿意を感じるタイミングが遅いように思う。認知症が進行しているからだろうか。新しいものに着替えさせる時、「あははは…」と母は笑い出した。私は辛くて涙が出た。「何で笑うの!」ついに、母の前で泣いてしまった。泣いちゃいけないとずっと抑えてきたのに。母は私が泣き出したのを見て「泣かないで…ふふふ…」と笑いながら私を慰めようとする。介助で母に気を使わせたらいけないのに。私は自己嫌悪に陥りながら涙が止まらなかった。辛い。母が壊れているのが辛い。
興奮した気分を止めるのにデパスを1錠飲み込んだ。
リハビリはハードだった。特別介助浴の予行演習では、母の体重の重さと歩行の不安定さが問題になった。私も汗だくになって母を支えた。その後平行棒内で歩行訓練。少し休んで、実際の階段の昇降訓練。下りより上りの方が麻痺側の足が上がらず上手く行かない。
リハビリが終わってから担当の作業療法士さんから、家族の介助練習を早急に始めないと、退院までに自立は無理かもしれないとの話を聞かされた。キーマンは父になるほか無い。ケアマネージャーにも病院に来てもらい自立度を見てもらうようにして欲しいと言われた。もう時間が無い。母の身体機能はゆっくり回復してきているが退院の日までに間に合いそうも無いらしい。父も妹も弟も分かっているのだろうか?これから在宅になるということの意味を。間もなく訪れるその時に、何の準備も無かったらどうなるのだろうか。焦りと家族の無関心さに息苦しさを感じた。私はどう動けば良いのだろうか。とにかく、父に話をしなくてはいけない。苦しい…