生きるくるしみ

ルミラージュ2004

朝、リタリンを飲む。心拍数が上がり身体も脳も動き出す。
私は家事を放り出して母の病院に行っている訳ではないのに…。
夫はどうしてそんなふうに冷たい態度しかとれないのだろう?
昼過ぎ、リタリンが切れる。鉛のようなだるさを安定剤で埋めて病院へ向かう。
ちょうど面会時間。少し傾いた日射し。
母は私が病室に来ると起き上がって、病棟の廊下の端の窓から、その下を流れる川を見に行く。
家で淹れてきた珈琲を二人で飲みながら、カモを探す。
「今日は子どもが留守番だね。昨日は沢山居たのにね」
洗濯物をコインランドリーに放り込んで、ベッドを整える。
私が買ったシルクのベスト、毎日来てくれているらしい。
ふわふわのファーで出来てるバラのブローチ、セラピストさんから可愛いと言われたそうだ。
静かに時間は流れる。
私は時間を気にする。夫の機嫌が悪くなるから…。
父が食事の介助にやってきた。
後は父に頼み、母とさよならする。
私に出来ることなんて大したことはない。片道3時間かけてまで来ることもないのかもしれない。
こんなことで、夫婦関係に亀裂が入るなんて思っても見なかった。
帰りのバスは地方都市のメインストリートを真っ直ぐ進む。
目の前にイルミネーションのトンネルが広がった。
小さな無数の光がアーチのように私を迎え入れる。
気がついたら涙が流れていた。
もう退院して家に戻りたいと無理を言う母。
遠距離介護で身体を壊したら共倒れだと怒る夫。
自分の病気さえコントロールできず無力感に苛まれる私。
家に帰れば夫は不機嫌になり会話もない。
私は声を殺して泣きながら夕食の準備をする。
生きているのが辛い。
この先、どうしたらいいのか分からない。