会話はメールのみ

ピラカンサ

昨日の日曜日は、夫はずっと寝ていた。何も会話もなく、ただ寝ていた。
私はそんな夫との意思疎通が殆ど出来ないことに苛立ちを感じていた。
去年の今頃、病気を理由に働かないのはずるいと私を怒鳴りつけた夫は、今、定職もなく、責められた私は毎朝緊張のあまり早く目覚め、毎日通勤している。
その時の夫の言動が忘れられない。そして今の夫の姿を許せないでいる。
仕事の無い日は、日中引き篭もりパソコンを見ているか寝ているかのどちらか。家事をするでもなく、ただ無気力に生きているように見える。あの時、私を激しく怒鳴り、病気でも働けと言ったのは何だったのか。私はその後必死で職を探し、すがりつくように今の職に就いた。慣れない医療の世界。緊張と無力感と派遣であることの疎外感を感じながら、身体は醜く浮腫み仕事が終われば泥のような疲労におそわれつつも働き続けてきた。その努力が報われないものであるように、夫を見ると、何ともいえない感情が突き上げてきて苦しくなる。
その感情は、日々の家事労働に対する拒否感覚として現れ、私は徐々に家事が面倒になってきていた。口ばかりで行動が伴わない夫のために、食事を作ることも洗濯をすることも掃除をすることも、嫌になっていた。そして度々発作的にストライキを起こした。
そのことが、夫を怯えさせた。怒りが最高潮に達した私は、物に当たりちらしたり、大声を上げたり、どこかで時間を潰してわざと遅く帰宅したりした。それもこれも、何を話しても反応のない夫に対する苛立ちが原因だった。
今朝、出勤前に夫のために朝食を用意し、まだ寝ている夫に、会社に行って来ると告げると反応はなかった。ただ寝ている夫にふつふつと湧いてくる怒り…。
昼過ぎ、夫からメールが入った。このところお互いの用件はメールでの会話のみになっていた。
20日まで夕方から朝まで現場なので、夕食いりません」
夫は現場の仕事が入ったので、私が寝ている間現場で働き、私が出勤する頃帰宅して眠る。
この1週間は、夫婦が顔を合わせることはない。
唯一、家の小鳥だけが、ふたりの安否を知っている。
私は少しの不安と、なぜか肩の荷が下りたような不思議な安堵感に、複雑な心境になった。
毎朝、出勤中に夫から「仕事が終わった」とメールが入る生活が始まった。