それはビジネスチャンスだった

昨日の夜、派遣会社の担当営業さんに事の次第を話していた。担当営業さんはその話を聞いておらず明日総務に呼ばれているのだけれど何の話か知らなかったという。私の就業契約が変わるので新たに手続きが必要なのだそうだ。実はそれが派遣の営業にとっては大きなビジネスチャンスであったのだった。私は部長の指示に従うし契約延長は希望している旨伝えた。その話を明日総務として来ると担当営業さんは言った。
翌日総務担当と話した派遣会社の担当営業さんは、私が異動することになると手続きが必要なことと、新たに派遣を紹介したいと切り出したらしい。これが営業マインドと言うものだろう。午前中に内線があって総務に呼ばれた私は、総務部の担当者から、総務部でも異動の話は聞いていないし、新しい派遣さんを頼むのでそのまま今の部署で就業するようにと言われた。
私は派遣会社の担当営業の機転で、異動しないことになったのだ。
何か不安なことはないか、と担当営業さんはにこやかに尋ねた。
「異動がないのであれば、他には何もありません」
気が動転して倒れそうになるのをこらえるのに必死だった。
とりあえず、今の部署で9月まで働けるように更新手続きを進めることになった。
緊急ミーティングが終わった部署では、「派遣なんか頼んでも無駄なだけだ」という声が聞こえた。部長の方針に否定的な意見が飛び交っていた。あの中に私が飛び込んだら…と思うと恐ろしくて身震いがする思いだった。
昼休み、化粧室で偶然部長と会った。部長はさらりと「あの話は別の派遣さんを頼むことにしたのでペンディングにしてくださいね」と言った。
ペンディング…ということは、保留ということで、私が異動する可能性はまだあるということでもあった。なんとなく、漠然とした不安がこころを埋めた。
彼女は、本当に誰からも声を掛けられずに、静かに去っていった。この短い1ヶ月がどれだけ長く感じただろう。現場の排他的な雰囲気のなかで1日、1日、あの席で過ごすのが辛く孤独に満ちたものだったに違いない。
どうか、新しい職場で、彼女が輝けるようにと祈りながら、彼女の後姿を見送った。