あなたに居て欲しい

さくらのケーキプレート

仕事は相変わらず引継ぎ。
なるべく丁寧に、分かりやすく業務を申し送りした。
新しい仕事に不安を感じている後任に、ときどき冗談を交えながら、自分なりの工夫を伝えていく。
切ない作業だと思った。けれど私に課された仕事は責任をもって最後まで手渡していくこと。やさしく、穏やかに、効率よく…。
今週の仕事を終え、タイムカードにサインを頂き、帰ろうとして呼び止められた。この4月人事で別の部署に異動になった方だった。3月まで一緒に同じ業務を励ましあいながらやってきた方だった。
「時間ありますか?もしよかったら、この後お茶でもしませんか?」
意外なお誘いに少し戸惑ったけれど、丁度過食したい気分だったので彼女が仕事を片付けるのを待ってお誘いをうけることにした。
夕方のティールームは静かで、客は私たちだけだった。
私はケーキセットを頼み、彼女はワインとトーストを頼んだ。
「疲れるとね…無性にワインが飲みたくなるの」
可憐な外見からは想像できない意外な一面だった。
人事異動があってから、お互いゆっくり話す時間もなかった。だからお互いの部署の仕事の話や人間関係など報告しあった。
彼女は、お昼にエレベータで偶然一緒になった時、契約更新するかどうかという話になり、私はまだ話は聞いていないし今引継ぎをしているから次の更新はないかも知れないという話を気にしていた。
「もしも、更新の話があったら、あなたにここに居て欲しいと思っています」
彼女はストレートに大きな瞳をまっすぐに私に向けてそう言った。
私も望まれているのならそうしたいけれど、実際に決めるのは総務部だし、今まで担当してきた仕事は引き継がれるからもう私は必要なないのではないか、何か部署内で疎外感を感じているという話をした。
「私も何度もそういう気持ちになって、何度も悔しくて泣いた…」
彼女は私の気持ちに自然に共感してくれた。自分も4月まで臨時社員で部署から疎外されていると感じていたと、あなたと立場は同じだったからその気持ちがよく分かると。
だけど…彼女は私の穏やかさが今の職場に必要だと言ってくれた。もし嫌でなければここに居て欲しいと思っている人がいることを忘れないでと。
私は彼女に感謝した。私よりずっと若いのに、人の心の動きを敏感に感じ取り受け止められる心の広さを持っている。彼女のような人がもっと現場にいていいのに…彼女の適性が活かされない残念な気持ちが痛いほど伝わってきた。
結局、そんな話を1時間ほどゆっくり話したら、こころの奥のもやもやした気分が晴れたような気がした。
ありがとう。お互い新しい環境で励ましあって働いていきましょう。