32条がなくなる!

東京都からのっぺりとした白い封筒が送られてきた。何が入っているのかは外見からは全く分からない。唐突で違和感のある郵便物を開封してみると、資料一式が入っていた。
32条がなくなって、自己負担額が10%になることは知っていたが、こんな形で申請し直さなければならないとは…本当に精神的に負担だと思った。
まず、自立支援医療制度の説明のわかりにくさ。そして手続きの煩雑さ。更に精神科医心療内科医を忙殺する診断書。
この制度を決めた役人は、精神障害者の現実を分かっているのか。このような手続きをするために病院を何度も通い、書類を整え、役所の窓口に提出する…普通の人でも面倒な事務手続きを精神障害のある人が行うことの困難さを認識しているのか。精神的に不安定なとき、外出もままならないこともある。窓口で職員と接することで病状が悪化することもある。プライバシーが保たれない役所で(保健所ならまだしも)手続きをしなければならない劣等感に耐えられないのが精神障害ではないだろうか。病院の職員のように病人に接するスキルを役所の職員が持っているとは思われない。それは難病医療費助成申請の時経験済みだ。職員の心無い対応が、せっかく安定を保っている症状を再発させる引き金になってしまう。
更に追い討ちをかけるのが所得による限度額の設定の大雑把さ。世帯の年収で限度額が決まる。これでは家族に負担をかけてしまうと自身を責め、医療機関に掛からないで我慢する精神疾患者が増加してしまう。
そして、決定的なのが、医師の診断書を患者本人が見なければ申請できない形になっていること。これは精神疾患を治療するという観点からいかがなものか。
インフォームドコンセント、情報開示、個人情報保護法…色々な情報が患者の知る権利を保障しているかのように見える。しかし、精神疾患は病名を告知せずに治療が進められることが多々ある。特に統合失調症の場合、本人に告知することで患者や家族が絶望感を強め、治療意欲を失ってしまうこともよくある話だ。私も統合失調症の症状があることを告知された時、一時的にうつが酷くなった。主治医から一方的に告知されたのではなく私から告知を求めたのではあるがその時のショックは忘れ難い。今回の申請手続きでは主治医の診断書を患者自身が見て重症度を申告しなければならない形になっている。自身の診断を知りたくない権利は存在しないのか。そのために症状が悪化した場合、行政は何らかの保障をしてくれるのか疑問だ。
他にも問題点は多々あるのだが、最後に、この書式一式を頑張って申請しようという意欲のある患者はどのくらい存在するのか。症状が重い患者ほど、申請への道が遠のくようでいたたまれない。病院の他に薬局まで指定されるのも死活問題だと思う。せっかく院外処方箋を持っていても指定薬局が閉まってしまったら薬が買えない。精神科救急が叫ばれている昨今時代に逆行するような制度ではないのか。精神疾患は決してなまけ病ではないのだ。患者は社会復帰を目指して患者それぞれのペースで療養している。それを一律社会へ押し出そうとするこの制度はいったい誰のためなのか。
私も申請しなければならない。そのためには会社を休んで手続きをしなければいけない。精神疾患を隠して働いている患者も多い。この年度末、嘘をついて休みをとる患者が増えるのだろうか…。心が痛む。