涙…

再び心療内科の診察室に呼ばれたのはお昼を過ぎ午後1時を回っていた。
神経内科での和やかな対応に不安が緩和され私は落ち着いて主治医と対面した。
主治医は先の診察結果が細かく記されたカルテの内容に目を通し、一連の「事件」の総括をしてくれた。
トリプタノール服用によって急速に眠気が出て床で寝てしまい寝返りを打てないほど熟睡していた可能性があること。その間に身体に右手を巻き込んで神経を圧迫した可能性が否定できないこと。副作用であるとしたら両手に現れること。よって肘の神経圧迫による痺れであり回復は見込めること…。
最初は主治医の顔を見たら感情が溢れ出てすぐ泣き出してしまうと予想していた。夫の前では絶対に泣いてはいけない、弱音を吐いてはいけないと不安を抑えてきたからだ。しかし、淡々と診察は進んでいた。
それが噴出したのは主治医が薬の処方の話を切り出した時だった。
朝夕2回1日40mgだったトリプタノールを20mgにしてみてはどうかという提案だった。私の経済的事情も考慮し処方箋を発行しなくても手持ちの薬で次回までつなげられる方法でもあり、主治医の配慮が感じられたが、私の中で「拒否」の思いが突然湧き上がり身体が震えた。涙が溢れてきた。
「先生…私は昨日会社から解雇を言われて10月から仕事がなくて…手が…履歴書も書けないのに仕事探さないといけなくて…トリプタノールは効いていたと思います…でも、こんなことがあってまた飲むのは怖いです…アモキサンを、足りなくなるので元の処方箋に戻してください…」
副作用でないらしいことは理解したつもりだった。でも私は急速に退行し心の中で主治医を母に重ね腕の中でだだをこねて泣きじゃくる子供になってしまっていた。
「安定剤を整理するためにトリプタノールが使えるほうが良いのですが…それでは、機会を見てということで…アモキサンの不足分を出しておきますね」
主治医は明らかに残念そうだった。トリプタノールは効いていた。それで強い不安を抑えれば治療は前進する。でも静かに私の不安を受け止め要求を受け入れてくれた。
穏やかな表情に戻った主治医は少し興奮した私の気持ちを鎮めるように丁寧に処方箋を手渡した。
2科受診。2度の面接。長い長い病院のいちにちが終わった。
先生、私は前回の面接で言われた「不安を少し踏ん張ってみる事」に失敗してしまいました…夫の前では頑張ったけれど先生の前では駄目でした。次回はきっと穏やかにお会いできるように努力します。長い診察ありがとうございました。