落穂拾いの道程に

私の家族の絆は既に壊れているのだけれど、母の病気を契機に砕けた絆の欠片を拾い集め始めたように思うことがある。集まった欠片で何が出来るのかまだ分からない。だけど家族それぞれが思い思いに自分のやり方で動き出している。私は元の家族が想起されるのが辛いからその道程をまるで落穂拾いをするように無心でいようと思う。悲しみの絆の先は辿り着いてから考えたっていいのだから。
実家に電話して休日の介護をしている妹に実家に帰れないことを詫びた。母も安定しているし大丈夫だと言う。薬が私の心の波を安定させて普通に話が出来た。弟も出張のついでなのか来ていると言う。母は子供たちが帰ってくる休日が嬉しいのだろうか。相変わらず電話の向こうの母の声は無表情だけど、損傷された脳は元には戻らないけれど、残された機能を集めて生きる意欲は感じ取れる。
私は母の強い希望で美術の世界に入った。自信はなかったし先は見えていた。だけど母の願いを叶えるのが私の役目だと思って自分を偽って歪んだ心は病気になった。でも、母がいる限りこの世界に少しでも身を置く事が母を励ますような気がして無理を重ねる。私が心を病んでいることは母も薄々気づいているだろう。身内に精神病が出ることをとても心配している母には私の病気の話はしないつもりだ。
落穂拾いの道程には悲しみも怒りも降りてこない。たまには藁のベッドに寝転んで見上げる空に心をあずけよう。