距離をとる

体調が悪かった。でも、ケアマネージャーが決まり、リハビリ科サイドとの話し合いの設定のことなど直接担当者に聞きたかったし、母の様子も気になったので、重い身体を引きずってお見舞いに行く。
ちょうどリハビリが始まるところ、母は失禁していて大慌てて処理に走る。母は笑っている。悔しくて涙が出る。母も辛い。私も辛い。
病気を抱えながらお見舞いを続けている事を知った担当の作業療法士さんのはからいで、父を説得してもらい、母のリハビリを見てもらうようにしてくださった。私の身体を気遣ってくれて、「ご自身のために力は残しておいて下さいね、重要な事があれば連絡しますから」と言ってくれる。嬉しかった。家族より他人の方が私の気持ちを汲んでくれるなんて複雑な気持ちがした。
父も仕事が終わるとすぐ母のリハビリの様子を見てくれるようになった。「今日は顔色がいいだろ?」「昨日より歩行の体重移動がいいぞ」それなりに気を使うようにもなってきた。
リハビリが終わってコーヒータイムになった。それでも母は妹や弟をあてにしている。継続してお見舞いに通っている子供は私なのに…。私はいろんな感情がこみ上げてきてまた母の前で泣いてしまった。母からひとことでいい、労いの言葉が欲しかったのだと思う。それなのに、見舞いにも来ない弟や妹を想う母が悲しかったのだと思う。私は車椅子の母に何を望んでいたのだろう。見返りなんて望んではいけないのに…。
うつ状態が酷くなっていると感じた。作業療法士さんからも顔色が悪いし疲れて見えると言われた。少し、休んだほうがいいと思った。自分の為だけじゃない、母の心のためにも。
花を取り替えた後、帰りがけ「しばらく来ないよ」と母に告げた。母はベッドから笑いながら手を振った。少し距離をとろう。お互いのために。涙を拭きながら病院を後にした。