死亡受取人

訪問調査前、母は食堂で昼食を食べていた。その間に私は昼の薬を飲みに院内の喫茶店で軽食を摂った。決して美味しくも無く安いわけでもないトーストのセットを注文して、しばらくぼんやりとしていた。これからのお金…どうしようか。ふと数年前の私の行動を思い出す。私は自分の生命保険の死亡受取人を長い間母にしていた。それは独身時代から入っていたからそのまま結婚してからも変更しなかっただけのことだった。けれど私は自らの命をおしまいにしたい衝動に襲われ、死亡受取人を夫に変更し身辺整理をした。多分夫はこれからも職に困るだろうから私が居なくなってもしばらくは生活できるようにと思ったからだった。今、また受取人を母に変更しようかという考えが浮かぶ。私が死ねばいくばくかのお金が母に入るだろう。それで家の改装も介護費用も出せるのではないかと思った。私はもう未来を考えないでいい。母は私のお金で暮らしていける。歪んだ思考だと分かってはいるけれど、そういうことも可能なのだと考え込んでしまった。