そのことでいっぱいで

砥部焼のマグ

リタリンで起き上がり、今日は何をしようか考える。もう、こんな生活は嫌になってきた。
ランドリーバッグの布を裁って、大体で大きさを決め、チロリアンテープをしつけした。
作業しながらも妹に対する怒りや悲しみの感情が蒸し返して泣いてしまう。薬ももはや効かなくなった。
バッグはミシンまで行かなかった。夕方になる。
母に頼まれていた砥部焼のマグカップをお店に注文してあったので買いに行く。柄が何種類かあり、干支だからにわとりとひよこの絵のついたカップにした。新年だからと干支の鈴のついたお守りをもらう。これは早く母に届けなくてはいけない。今使ってるカップは100均で買ったもので同じものを使っている患者さんが他に2人もいるから嫌がっていたのだ。今日は病院には行かないけれど…
久しぶりに喫茶店でケーキを食べたくなった。禁煙席に落ち着いてケーキセットを頼み、目の前に可愛らしいピンク色のムースが出てきたとき、電話が鳴った。夫から、近くに来てるけど夕食の買い物はしたかと聞いてきた。近くの喫茶店でケーキを食べるところだからと夫を呼んだ。ちょっと気まずかった。ケーキセットの飲み物のカップは、初めて見るものだった。おおきめで私のはカルガモの親子が、夫のは飛び交うツバメが美しい藍色で描写されている。すこしぼかしのきいたこの絵付けは…「大倉陶園かな?」夫がソーサーの裏を返してマークを確認する。「いいね…」少し贅沢な時間が流れる。夫は喫茶店においてある絵本を夢中で読んでいた。私も何冊か読んだ。少し気分が安定してきた。
けれど、買い物をして帰ってきて夕食の支度を始める頃、またあの感情が湧き上がって涙がこぼれた。私はもう壊れてしまっていた。夫は夕食を作るのが嫌なのかと思って「もう夕食は作らなくていいよ。明日からお弁当にしよう」と悲しそうに言う。「ちがうよ、昨日のことが悔しいだけだよ…」私が理由を話すと夫は呆れたように表情を暗くする。「いいじゃないか、ひとぞれぞれ、性格は変えられないんだから。昔から○○ちゃんはそういう子だったんだろ。お姉ちゃんだからしっかりしなさいって言われてきたから許せないんだろ。もっといい加減に生きていいんだよ。分かってるだろ」
私は泣き続けた。何でこんなに涙が出てくるのか不思議だった。そして本当に今度は壊れたな、と思った。
夫は気の毒だと思った。こんな妻では気持ちも休まらないだろう。本当に申し訳ない。私の存在が夫を苦しめている。かわいそうだと思った。本気で入院したいと思った。