受け止め方の違い

雨の中、コーヒーを入れたポットを鞄に詰めて母の病院へ向かう。駅で実家方面は大雨で電車が遅延してるという情報を見る。この1週間、妹と連絡が取れない。父も疲れているだろう、だから1時間でも病院に行くことに意味はあるのだと自分に言い聞かせる。
精算に手間取り、病院行きのバスに乗り遅れる。20分待ち。時間が惜しい。ショッピングモールの花屋で黄色とオレンジのラナンキュラススイートピーの花束を買う。多分前回行った時活けた花は枯れているだろうから。
病院に到着したときには、辺りは真っ暗だった。母は病棟の廊下の窓からカモを探していた。父も来ていた。「今日はカモは少ないね」と母は言った。コーヒーを持ってきたことを話して、談話室で父と3人で飲むことにした。母は普段甘いものを食べられないのでコーヒーを飲むときだけカロリーゼロの甘味料を入れてコーヒーを飲んでいる。少しは楽しみにしてくれているのだろうか。
昨日出張帰りに弟が見舞いに来たので母は機嫌が良かった。もうすぐ家に帰れると思って庭木の剪定のことや物干し台のことなどこれからの話を途切れなく話し続ける。セラピストサイドで、自宅の状況を調査しに来たかと母は聞いたが、父は呆れたようにそんな話は聞いていない、誰も来ない、誰か来るか知らせも来ないと聞く耳を持たないで文庫本を読み続ける。母はそれでも退院後のことをいろいろ話し続ける。帰りたいのだろう。入院生活が辛いのだろう。私は黙って聴いていた。
そこへ妹が突然現れた。この週末彼と温泉に行って来たのだと言う。何ともいえない想いが心の底で渦巻いたが結局私が馬鹿なのだろう。それ位自分の人生を大切にするほうが利口なのかもしれない。
空腹だった。薬だけが放り込まれた胃は微かに差し込むような痛みを感じた。妹に何も言うことは無かった。ただ、私は無口になり、「気分が悪い」と一言言った。
家族と別れてひとりになった時、疲れたなと思った。もうくたくただ。どこか遠くへ行きたい。
駅前のスタバでマフィンとコーヒーを摂った。夫にはちょっと休んでから帰ると連絡を入れ、しばらくぼんやりと殺伐とした地方都市の風景を眺めていた。急に泣きたくなって下を向いた。こみ上げてくる怒りと悲しみ。コーヒーを一口飲むたびに少しずつそれが治まっていった。