何で来ないのかと思っていました…
1ヶ月ぶりの通院。病院の桜はところどころ咲き始めていた。
会社にお休みをいただき、ここに来れたことがとても嬉しくて、主治医にそのことをまず報告しようと思った。
予約時間に待っていると診察室から出てきた主治医が私の顔を見て「えっ？昨日では…」と驚いたように声を上げた。私も少し慌てて予約カードを確認しようとしたが主治医が「私が…間違えたのだと思います…考えますので少し待ってください」と言って診察室に戻り、次の患者さんを呼んだ。
一瞬、私が間違えたのかと思ったけれど、手帳にもしっかり今日の日付に予定が書き込まれているし…私は今日診てもらえるのかな？とふと不安になった。今からカルテを用意して…予約に空き時間なんてあるのだろうか…一度家に帰ったほうがいいのかな…。
何人かの患者さんを診察した後、主治医が出てきて申し訳なさそうに片手で謝る仕草をしながら、「少し、時間に余裕はありますか？」と尋ねてきたので「大丈夫です」と答えると、「では、午後1時ごろ○番診察室の前で待っていていただけますか？」と頭を下げられてしまったので恐縮してしまった。私は私は笑って「はーい」と返事をして早い昼食を摂ることにした。
ランチは病院内の喫茶店で済ませた。早めに行ったので比較的空いていた。金曜日、主治医は食事も摂れないで私の診察時間を確保するのだろうか…。ちょっと気の毒な思いがした。
診察室の前で待っていると時間ぎりぎりに午後の診察のカルテを抱えた主治医がちょっと疲れた表情で現れた。そのまま名前を呼ばれて一緒に診察室に入った。
私が先に「電話で確認すれば良かったですね…」と主治医に声をかけた。主治医は「いえいえ…私が間違ってしまって…昨日何で来ないのかと思ってました…」と笑った。私は少し意外な、でも嬉しい気持ちが湧いた。
昨日の予約時間に主治医は多くの受け持ち患者の一人でしかない私を待っていてくれた。何で来ないのかと気にかけてくれていたのだ。主治医のこころの片隅に私のことがあったというだけで少し幸せな気持ちがした。
それから診断書を素早く書いて下さったお礼を言い、無事手続きも済んだことを報告してからいつものように診察に入った。
まず、仕事の契約が延びたこと、派遣先に通院のことを話してお休みがもらえるようになったことを報告した。私はこのことが報告できれば今日は処方箋をいただいて終わりでも良かった。だからこの後起こるハプニングは楽しい思い出にしておこうと思う。
それは、わたしが仕事のストレスのことを話している途中のことだった。珍しく主治医が私の話を制止し「ちょっと…待ってください」といって慌てだした。私ははじめポケベルでも鳴ったのかと思ったが、主治医は電話をかけるでもなくデスク周りをおろおろしながら調べている。「あー」と声を上げながらキーボードを叩いたり電源を触ったりしている。
知らない間に病院のシステムが変わっていたようだ。デスクのモニタは落ちてしまっているのか真っ暗になっている…^^;主治医が慌てているのが分かった。モニタが点かないのでシステムが落ちたのだと思っているらしい。
主治医は困り果てた顔で私に「分かりますか？」と聞いてきた。
私は吹き出しそうになるのを押さえながら、「モニタがスリープになってます…」となるべく落ち着いて答えた。はっと気づいたのかマウスをつかんだ主治医の目の前でモニタの画面がブルーに変わりアラートが出ている^^;「あの…シャットダウンしてるので…再起動しないと…」主治医は画面が落ちるのを確認してからパソコンのスイッチを入れなおし始めから起動しなおした。こんなに動揺している主治医を見たのははじめてだった。
ほっとしている主治医に「システム変わったのですね」と私が声をかけた。主治医はぼそっと「使い勝手が悪くて…」とこぼした。
こんな市民病院でもＩＴ化が進められている。全ての医師が電子化のスピードについていけるとは限らないと思う。日々の業務をこなしながら新しいシステムに慣れていくのは大変なことだと思う。特にそれほどパソコンに強くない主治医にとっては日々の診察のストレスになっているのではないかと心配になった。
その後も主治医は新しいシステムと格闘していた。混合診療導入のための新システム*1らしいのだが、以前のシステムのほうが整然として見やすかった。処方を決めるときもモニタが見やすく整理されていて、医師が患者に説明したり相談しながら決めていくことが出来たが、今度のシステムはなんだか字体が遊んでいて読みづらく画面もごちゃごちゃしていてどこを見て良いのか分かりにくくなっている。現場や患者の意見を取り入れてシステムが修正されるように願いたい。
こんなに動揺した主治医を見て、私は少し安心した。本当は患者の前で弱いところを見せてはいけないのかもしれないけれど、受け持ちの患者が来ないことを気にかけて、その患者の前でうろたえてしまう人間味のある先生で良かったと思った。
次回の診察は少し間隔を空けて1ヶ月半後に予約をした。連休の直前になる。今度は間違いのないようにしっかり日付を確認した。
先生、次回も私は必ず先生に会いに行きます。先生の治療を受けたいから仕事を休んできたのですから。今日は本当にお疲れ様でした。
