アナタは憶えています…

大学院で師事した教授が定年退任することになり、記念展覧会とオープニングパーティーへ行ってきました。
私は修士に行くのに自分の絵を売って学費にした。それを叱ったのがセンセイだった。
絵を売るようなことをせずに絵を描けとセンセイは言った。
当時から貧乏だった私は親にも頼れず自分のバイト代では続かなくどうして良いか分からずただ泣いてしまった。
そんな青春時代もあったのだな。
結局博士課程にはオカネが続かなくて断念した。当時既に発病もしていた。
いまはセンセイの叱った意味が分かるのだ。
沢山の教え子たちに囲まれたセンセイの傍に私は立っていた。
「センセイ、私を憶えていらっしゃいますか?」
「うん、もちろん憶えています…絵と顔は。名前は覚えられないんだけどね…」
「○○です。先生」
「あっ○○ちゃん!うんうん…」
センセイは顔をくしゃくしゃにして笑って私の肩をたたいた。
それから私が修了してから湿地の鳥を守る活動のお手伝いをしていることを話した。
センセイはエコロジストなのだ。
学生の頃はそんなセンセイが胡散臭かった。なんか偽善的な感じがして嫌だった。
センセイは擦り切れそうなネクタイをして酒焼けした顔をくしゃくしゃにして、鳥の話、子供の頃の川や海や自然の話、小さな生き物や植物のこと…自然を守る活動は頑張らないこと…いろんな話を次から次へと話してくれた。まるで少年のようだった。
センセイのお祝いに駆けつける事ができてよかった。