空白…

診察までとても緊張し、お腹の調子が悪くなった。出掛けになんと失禁してしまい、慌てて洗濯し下着を替えた。緊張と不安で何も考えられなくなっていた。
病院には予約時間15分前に着いたが、主治医の診察室に人影はなく名札も無かった。別の場所なのか不安になり、内科系の診察室を巡ってみるが無い。もう予約時間は過ぎていたが主治医は現れなかった。とりあえず、いつもの診察室前で待っていた。不安が募って泣きたくなった。
15分ほど遅れて主治医がカルテをかかえて足早に診察室に入った。険しい顔をしていた。先週の予約変更のことを思い出して気持ちが落ちていく。
診察室の私は、主治医のいらいらした雰囲気に怯えていた。いつもは居心地の良い診察室が冷たい牢獄のような気がした。私は自分の体調の変化を話したかったのに、雰囲気に圧されて母の介護の話をはじめてしまった。文書を出して呼び出され辛かった事。翌日は一日中泣いていた事。一応母の退院日がきょう決まると言う事で主治医は「ご苦労様でした」と言ってくれた。普通なら嬉しいのになにか皮肉のような感じがしてしまう。そんな先生じゃないのに…
時間は押していた。急に次の予約の患者さんが診察室に入ろうとして扉を開ける。主治医が飛び出していって「もう少し待ってね」と優しく声をかける。それが、私に対するのと微妙に違うのが何故か悲しく、気分が段々沈んで主治医の話も集中して聴けなくなって来た。
試しに処方されたメジャートランキライザーで気を失うことを話したら、別のメジャーに変わった。最近の主治医の処方は乱暴な気がする。なんとなく雰囲気にのまれてそう感じるだけかも知れないが…
ポケベルが鳴っていた。主治医はそちらのほうに気持ちが傾いているようだった。急患さんなのだろう。次回の予約日と時間を決められた。処方箋をもらい診察室を出た。荷物をまとめている時、予約カードの次回の欄が空白なのに気がついた。ショックだった。多分他の事に気持ちがいっていて忘れたのだろうと思ったが、私の次回の診察は拒否されたような気がして悲しくて悲しくて涙がこぼれた。自分で日付と時間を書いた。主治医は私を疎ましい、面倒な患者だと感じていたのかもしれない。それが、予約カードの書き忘れとなって出たのだとしたら…
私と主治医との出会いは偶然だった。けれど今は主治医を信頼して主治医の治療を受けたいと思って通院している。もう5年になる。その歴史が足元から崩れていくような辛い気持ちになって、薬局で「先生とはお話したのですか?」と聴かれた途端、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。「先生もお忙しかったのですよ、辛い時は電話して聞いていいのですよ」とまた言われる。さらに悲しくなって泣いてしまった。薬局で泣くなんて…
カードの空白…ただそれが悲しかった。それだけで涙が止まらなかった。ずっと泣いていた。