何で今まで痛みを感じないで済んでいたのだろう。この腹痛。下血しても、一晩中腸が動いて眠れない夜も感じなかった痛み…私はあの診察の日、主治医との距離を感じていた。向き合って傍にいるのに、ずっと遠ざかっていくような寂しさを感じていた。「もう、一人で歩いていけるでしょう」主治医は無言でそう言っているような気がした。薬は減っていない。まだ症状は回復していない。けれどこれからの治療関係は、今までのような親密さから離れていくのだろうと思った。それがとても受け容れ難く、子供が母親にしがみつくように心は混乱して冷静さを失ってしまっていた。それから腹痛は始まった。
もともと腸に炎症があるのだから痛みを伴うのが正しいのだ。それを感じなかったのは、私は主治医に守られている、支えられているという安心感があったからなのだろうか。なぜ、今回の再発が痛みを伴うものなのか本当のところは分からない。でも、今私は一人で症状に向き合って、上手く扱えなくて困惑している。主治医の姿が遠くに見える。今までのように近くに寄り添って、痛みを取り除いて欲しいと私は願う。それは叶わない夢なのか。
会社帰り、近くのカフェでラテを頼んで、夕方の薬を飲み込む。腸の薬ではない。抗うつ剤と安定剤。主治医のことを考えながら、これで痛みが止まりますようにと祈りながら飲んだ。しばらくして、ずっと疼いていた下腹部の圧迫痛が消えた。不思議な経験だった。痛みは1時間もすると元に戻ってしまったけれど、今まで私は主治医の支持によって痛みを逃れていたのかもしれないと思った。これからは、一人この痛みを抱えながら歩いていかなければならないのだろうか。まだ戸惑いが視界を曇らせ不安を煽っている。